改造車検


◎改造車検とは

 まず最初にここでいう「改造車検」についてまとめておきます。
 ちょっと古い話になりますが、以前の車検は基本的にノーマルの状態以外はほとんどが不当改造とみなされ車検に通ることはありませんでした。もちろん、普通に乗っているだけでも警察にとめられて切符をきられたもんです。
 ところが、1995年バブル経済崩壊後、いわゆる規制緩和の一つとしてかなりの部分で改造(この場合純正パーツでなくアフターマーケットのパーツに変更すること)が認められるようになりました。細かな部分というか具体的にどこがどういいのかはここでは書きませんが、指定部品として指定されています。また、指定部品でないパーツでも保安基準にのっとったものであればかなり許されるようです。
 そうは言っても、やはり許されないこともあります。今回のこのページでの改造とは、上記の条件からはみ出てしまう改造を行い、それが公に認められるようにし、車検を取得しようという公認車検のことと理解をしてください。


◎参考書

 話が多少前後しますが、今回の作業にあたり以下の書籍を購入しました。最低限の知識がなくてはどうしようもないですからね。決して読みやすい内容とは言えないかも知れませんが、ゆっくりとかみ締めながら読めば必ず理解は可能だと思います。

    △ 新クルマの改造○×                  山海堂          広田民郎
    △ 改造自動車 設計の基礎知識と認証の取得   工学図書株式会社   大野耕一
    △ 改造自動車等取扱いの解説             交文社          改造自動車取扱い検討委員会
    △ 自動車検査委員の数学                精文館          大須賀和美


◎申請方法と流れ

 まず申請先です。
 申請先は「自動車検査独立行政法人」というところです。そんなとこ聞いたこともないぞって思われる方も多いと思います。ここは平成14年に自動車の検査業務だけを名前の通り行政法人として独立させたもので、通常運輸支局や自動車検査登録事務所の中にあります。
 この「自動車検査独立行政法人」も検査部と事務所に分かれていて改造内容によって申請先が変わりますのでそれぞれ間違わないようにしてください。簡単に言うと、検査部が本社で事務所とは出張所のようなものでしょうか?ですので、検査部では全ての改造に関して取扱いがありますが、事務所では取り扱い内容に制限があります。ご自宅の近くに「自動車検査独立行政法人」があってもそれがどちらかよく確認しないと受け付けてもらえないかもしれません。
 また、公認を取ってからなら日本全国どこでも車検を受けることが出来ますが、今回のような公認を取るための申請はナンバーを登録した運輸支局でしか受け付けてもらえませんので間違えないようにしましょう。

 次に必要な書類ですが、大きく分けて以下の3つあります。

    ・改造自動車届出書(第1号様式)
    ・改造概要等説明書(第2号様式)
    ・添付資料

 ここでは最初の2枚(改造自動車届出書・改造概要等説明書)については説明を省きます。なぜかというと、これは形式的に決められているもので誰でもその場へ行けば簡単に記入が出来ますし、わからなければ丁寧に教えてくれるはずです。問題になるのは添付資料といえるでしょう。これは先ほど書いた参考書などに詳しく書かれていますが、要は改造した部分がどのように作られているのか。安全に作られているのかということを図面や計算式より求めて提出しなくてはなりません。
 この添付資料ですが、文章だけ読めば非常に難しく自分で作るには困難な気がします。しかし、後述しますが「自動車検査独立行政法人」へ相談すれば詳しく教えてくれますし、計算式なども教えていただけます。その公式にのっとって自分のパーツを採寸等して計算すればいいです。当然改造した内容や場所により添付する資料も計算式も違います。くどいですが悩む前に相談しましょう。なぜなら私がそれで無駄な時間をたくさん使ってしまったからです。

 添付資料を作成したら「自動車検査独立行政法人」へ行きます。とりあえず改造内容を説明しながら添付資料を見ていただきます。そこでとりあえずOKをいただけたら残りの2種類の書類を記入して提出します。これが第一段階といえます。

 これが受領されると「自動車検査独立行政法人」にて審査されます。ここで合格をいただくことが第二段階となります。

 そして合格をいただいたら後は、実車にて通常の車検+申請通りの改造かどうかの検査があり、はれて公認となるわけです。


◎具体的内容

 今回はCB400FOURのリヤドラムブレーキをディスクブレーキに変更いたしました。これで公認を取得するのが目的です。制動装置の形式変更(ドラム→ディスク、ディスク→ドラム)は改造申請が要るわけです。ちなみにディスクブレーキでローターを交換したりキャリパーを変更したり、シングルディスクをWディスクに変更することはなんら問題はありません。何もしないで車検を受けることが出来ます。もちろん、基準の制動力を有することが必要ですがね…。リヤのディスク化に関してはこちらのページをご覧ください。作業内容と使用パーツが載っています。

 いろいろと調べていくと制動装置の変更には添付資料として、「改造概要説明書」、制動装置の「強度検討書」、「制動能力計算書」の3つが必要なようなことが上記参考書に記載されています。


◎実際の申請でのこと

 上記しましたが、私も行く前に「自動車検査独立行政法人」へ電話で相談をしてみました。先にも書いたとおり制動装置の変更には「強度検討書」、「制動能力計算書」が必要なことが参考書などに記載されています。実は私は電話で相談する前にこの2つは必ずいるであろうと思い、自分なりに製作をしておりました。無い知恵を絞って作り上げたものなら(全くの検討違いならいけませんが)間違いを指摘していただき修正をかければ済むだろうと思ったからです。しかしです。電話で相談したところ、純正流用(アッセンブリー交換が前提)の場合はこの2つが必要ないと言われました。全くの無駄な時間を使ったわけです。強度申請書は多分なしでも行けるんではないかと思っていましたので実際には作成しませんでしたが、仮に必要といわれた場合には公式を聞いてきて、計算が出来るように、当てはめる数値を測定していました。それらが全て無駄だったわけです。
 一応いらないといわれたわけですが、なんとなく半信半疑(というのは、どうも電話で対応していただいた方があまり詳しくないようでしたので…)で作ってあった「改造概要説明書」と「制動能力計算書」をもっていくことにしました。
 最初はこんな素人が行くわけですから、小ばかにされていわゆるお役所対応で冷たくされるかと思ったんですが、それこそどこかの百貨店でも行ったかのように、やさしく親身になって相談にのってくれました。先ほど省略した2枚の申請書も一緒に記入していただけましたし、わからない部分などは調べたり計算したりしながら教えていただけました。とても親近感の持てる気持ちのいい接客態度でしたよ。


 *実際には必要なかった制動力検討書です。これは提出されていませんので計算が違っているかもしれませんが、せっかくですから乗せておきます。

フロントブレーキ制動トルク 今回はリヤのブレーキ変更為基本的に必要ないかも知れませんが、トータルの制動力を計算するのに必要でした。
リヤブレーキ制動トルク 上記フロントブレーキと計算方法は一緒です。
制動力検討 上記計算に基づき制動力について検討します。


◎実際の提出書類

 今回提出した書類です。著作権の問題もあるでしょうからここでの公開を避けさせていただいている部分もございます。ご理解ください。

  提出書類(改造概要説明書)


◎結果

 残念なことに今回は不合格となってしまいました。というのは、今回の打ち合わせの中で純正品の流用の為に各種計算書は必要ないと言われていたのに実際の審査では、キャリパーサポートとトルクロッドの強度検討書の提出を求められました。先に不合格と表現しましたが、上記提出物では足りなくて審査不能というわけです。


◎2回目の書類提出

 はっきり言って、ギブアップ寸前です。私のような素人では上記の強度計算は厳しいですね。「自動車検査独立行政法人」で相談してみたんですけどキャリパーサポートとトルクロッドのフォーマットは無いようで、全くのオリジナルで製作しなくてはなりません。はぁ〜…。
 しかし、ここでギブアップしては負けです。自分でやれることをやって、ギブアップはその後でもいいだろうということで以下の書類を製作して追加提出をしてみました。自信は全くありませんし、こんなもので強度が証明されるとも思いません。ただ、先ほども書きましたが「自動車検査独立行政法人」でもキャリパーサポートとトルクロッドのフォーマットは無いということなので、誰も答えはわからないんじゃないかということで、このようなものでごまかせないかななんてほとんど神様にお願いするような気持ちで挑みました。
 ところで、公認における強度計算には安全率という概念で強度を証明します。たとえば100kg/mm2の力を加えると壊れてしまう素材を利用して何らかのパーツを作ったとします。仮にそのパーツに101kg/mm2の力が加わってしまえばそのパーツは壊れてしまいますよね。当然100kg/mm2以下の力しか働かないようにしなくてはなりません。そこで制動装置の公認をとるためにはそのパーツに加わる力の1.6倍以上の力に耐えられる素材を使わなくてはならなく、計算にてそれを証明します。
 最初に書いた安全率とは素材が耐えられる力を実際にかかる力で割ってやり、それが1.6以上になればいいわけです。下記の書類ではそのように計算をしております。
 この計算で苦しんだことは、サポート等にどういう方向でどういう力が加わるのかがわからないことです。高校時代に多少の物理はかじりました。しかしこの場合は材料力学というんでしょうか?正直ちんぷんかんぷんです。当初使う予定のなかったリヤブレーキ制動トルクの計算を利用し適当といったら語弊がありますが、分析らしい分析もなしでこんな感じかなってなレベルでの計算です。ですから、自信もないですし、受かるとも思いません。せめて力の加わる方向だけでもわかればいいんですがね。少しでも本物らしく見せるためにそれぞれの計算書にはCADを利用し、それっぽくできたのがちょっとだけ満足です。

  ●キャリパーサポート強度計算書
  ●ブレーキロッド強度計算書
  ●トルクロッド締め付けボルト強度検討
  ●ロッドベアリング引っ張り強度
  ●ロッドエンドベアリング・ロッド接合部ねじ山強度計算


◎2回目の書類提出の結果

 なんと受かりました。自信は全くなかったんですが、よかったです。後は通常の車検と同じですね。現状を表現すれば書類審査が受かった状態とでも言いましょうか?


◎車検代金について

 2回目の書類提出の結果、改造申請が下りましたので車検を受けることにします。ご存知だとは思いますが、住所変更などと違いこのような場合は新規に車検を受けなおす必要があります。私の場合、まだ10ヶ月ほど車検の満了日まで残っていたのですが、こんなに早く申請が通ると思っていなかったのとやはり一社会人として違法改造で乗り続けるわけにはいかないと判断していくらか損をするような形にはなりますが受けることとしました。
 実際の損得勘定ですが、重量税の分ぐらいでしょうか?重量税は車検ごとに5,000円が徴収されます。ようは2年間で5,000円の前払いなのです。これが10ヶ月分残っているとはいえまた2年分取られてしまうのです。自賠責に関しては逆に10ヶ月分が残っているわけですから残りの14ヶ月に加入すれば問題ありません。損得勘定からすれば多少割高なのかも知れませんが特に損した気にはなりません。あと検査料ですがこれはどうしようもありません。1,400円かかります。以上のことから重量税分でしょうか?ということになるわけです。


◎構造変更検査

 さて、実際の検査手順ですが、通常のユーザー車検とさほど違いはありません。大きな違いは検査を受ける前に「自動車検査独立行政法人」に行き、改造申請の合格書を貰ってくることでしょう。検査自体は通常と変わりません。こちらを参考にしてください。下の画像はそのときに受け取った書類です。これは先に掲載を省略させていただいた改造概要等説明書(第2号様式)です。判が押され承認が下りたものです。クリックすると大きくなります。字があまりに下手なので恥ずかしいですが気が向いたら見てください。

  


◎新車検証
 これが新しい車検証です。色とデザインが変わっているのに驚きました。型式にCB400改。備考欄に改造内容の詳細が書かれています。クリックすると大きくなります。気が向いたら見てください。




◎総括

 今回の改造申請は正直しんどいものでした。なぜなら純正流用という方法をとれば強度計算はもちろん制動力の計算等も必要がありませんでした。それをわざわざ必要になる方法で公認を取ったために自分的にはかなりの時間を費やして勉強をしました。正直あのレベルの計算で強度が証明できたとは思いませんがそれでも勉強は必要です。
 このページをご覧のみなさんがそのまま真似をされて提出してももしかしたら受からないかもしれません。それぐらいのものです。逆に考えれば、流用という観点で改造を進めればとても簡単で誰でも容易に公認を取ることができると思います。是非挑戦をしてみてください。
  
欄外 
 今回のディスク化に伴いチェーンケースが付かなくなりました。メーカーによってはスイングアームを車検非対応とうたっているところもあります。
 「大人のおもちゃ箱」のKAKUさんによるとチェーンケースがない場合はどうやら乗車定員を2名から1名に変更する必要があるようです。何らかのケースを作成しようかとも思ったのですが、時間がなくそのままない状態で車検を受けることにしました。以前読んだ何かの本で、定員数を減らすことは簡単だけど、元に戻すことはかなり難しいようです。
 実際の車検では特にこちらから聞かなかったこともありますが、変更を出さずに検査を受けたらそのまま2名乗車で通ってしまいました。結果として本当のところはわかりません。


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